2019年6月1日のオープンソースカンファレンス2019 Hokkaidoにて「『プログラミング教育』とは? 今、わたしたち道民ができること」というセッションが実施されました。「さくらの学校支援プロジェクト」のシニアプロデューサーである朝倉恵と、石狩市聚富小学校でプログラミング教育の実践に取り組んでいる大畠玲先生が登壇しました。本記事ではその様子をお伝えします。
「IT企業と学校の先生、お互いの専門性を最大限生かす支援をめざしています」
朝倉と大畠先生からは、教育課程内でのプログラミング教育の取り組みについての発表がありました。
朝倉からは、小学校でのプログラミング教育についての基本的な内容から、学校内と学校外の連携も視野に入れたプログラミング教育のあり方についての説明を行いました。
小学校でのプログラミング教育では「プログラミング的思考」を育むことを目的としており、何かを覚えるというものではなく「考え方ができるようになる」ということを目指しています。人間の役割とコンピューターの役割は違うこと、日頃使っている電化製品にはコンピューターが入っていて、その動きは人間が決めている。コンピューターは魔法の箱ではないと言うことを理解してもらうことが目的となっています。
「なぜ小学校からやるのか、早いのではないか」という疑問を抱かれることもあるそうですが、AIやIoTなど、最先端の情報技術が身近にあるところで生きていく子ども達に、小さい頃から段階的に体験を通じて学んでいく場が必要であり、そのために小学校から行っているものであると朝倉は説明しました。
また、さくらインターネットでは主に学校内でのプログラミング教育(A分類・B分類・C分類)について、先生が継続的に実施していけるよう支援を行っている一方、学校で興味を持った子どもたちがさらに取り組んでいけるよう、学校外でのプログラミング教育(E分類・F分類)については地域で担っていく必要があり、「学校でもやる・地域でもやる」という2つの軸でやっていくことが大事だと語りました。
続いて大畠先生より、学校現場での実践の発表がありました。3/4年生の複式学級で「コンピューターのお仕事」を実践した際は、イラストの中のどのモノにコンピューターが入っているか示してもらい、どういう役割をしているかワークシートに書き出してもらった過程で子供たちは一生懸命取り組んでいたこと、本来高学年向けのワークシートを中学年向けに使ってみたが実施できた手応えなどを報告。5/6年生の複式学級で実践した「ロボットのお仕事」では、1つの指示に対して1つの動きであることを理解してもらい、ロボットにどのような命令を出せば箱を運ぶことができるかをそれぞれのグループで考え、本当にその命令でできるのか議論してもらったことなどが説明されました。
ここまでは、コンピューターなどの電子機器を使わずにプログラミングを学ぶアンプラグドの話でしたが、アンプラグドだけでは子供たちはピンとこないものです。実際にコンピューターに命令を与えることでより具体的に理解できるということで、micro:bitを使って「明るさによってLEDを光らせる」といったプログラミングに取り組み、進みの速い子供はLEDの光らせ方にも変化を加えるなど、授業時間内で子供たちの創意工夫が見られたことなどが報告されました。
プログラミング教育分野におけるコミュニティの取り組み
続いては学校外の取り組みとして、プログラミング教育分野でのコミュニティの活動について、3つの団体からそれぞれ発表がありました。
PCN札幌 太田氏
PCNとはProgramming Club Networkの略で、全世界で行われている活動です。学校の授業で興味を持った子供たちに学校外でのフォローを目的として実施されています。講師は9人、全員現役のエンジニアで構成されており、そのほかに学生のボランティアによって運営されています。ワークショップはこれまで38回実施の実績があり、ScratchやIchigoJamや電子工作などに取り組んでいるそうです。
CoderDojo札幌 三橋氏
CoderDojoはフランチャイズのプログラミング教室と「よく誤解を受けている」とのことですが、実際には各Dojoが自立的に運営している非営利の団体で、カリキュラムにしばられない、子供たちがやりたいことをやりたいようにできる場を提供しているそうです。子供たちはプロジェクトベースで好きなことに取り組んでいくため、自主性が求められるといった特長があります。プログラミングに限らず、電子工作やホームページ作成など、いろいろなことに取り組んでいる子供たちがいるそうです。「子供たちにいろいろな機会を与えていきたい」という思いで運営されており、「みなさんの経験を子供たちに分けてあげてほしい、大人からも積極的に関わってほしい」と締めくくっていました。
U-16プログラミングコンテスト 八巻氏
U-16プログラミングコンテストは旭川からはじまった16歳以下向けのプログラミングコンテストで、競技部門と作品部門とがあります。「子供たちにものづくりの面白さを知ってほしい」「全力でほめて、さらなる向上心を持ってもらおう」「世代間の横のつながりを持ってもらおう」という思いで運営されており、「情報技術が好きな子供たちの目標・活躍の場・受け皿になりたい」と思いを語っていました。
パネルディスカッション
プログラミング教育の課題
→先生方がどれくらい準備ができているのかなと感じています。考え方をきちっと学んでいくためのものなんだよという認識を持っていく必要があると思います。(大畠先生)
→プログラミングに興味を持っている先生が少ない、まだ広がっていない印象があります。(八巻氏)
道民ができること・何をしてほしいか?
→学校外のものに興味のある子をコミュニティなどに連れて行ってあげてほしい。ゲームに飽きて自分で作るようになったという話がありましたが、そういうことは実際あると思うので、そのように創造に意識が向いたときに「こういう場があるよ」と示せるようにしてほしいと思います。(大畠先生)
→石狩市では、興味を持った子供たちの受け皿を地元でどう持って行くかが課題になっています。今だと札幌まで出て行く必要があり、どうしても足が遠のくという問題があります。(朝倉)
→石狩市でもどなたかCoderDojoを立ち上げてくれるとうれしいです。(三橋氏)
コミュニティの集客
→プログラミングに関係なくても、地元で何かのイベントがあれば、そのときに「このようなことをやっている」と発表すると効果があります。(三橋氏)
→ウェブサイト・SNSで集客しています。我々コミュニティは興味を持った子供たちの受け皿になりたいと思っていますが、学校との間に壁を感じています。学校でパンフレットなど配れないかと思っていますがなかなかできていない状況があります。(太田氏)
→石狩市であれば、教育委員会との関係性があるので、そういったことも可能だと思います。ただ札幌市の場合は、札幌市の教育委員会との関係性がないと難しいかもしれません。(朝倉)
質疑応答
どうやったら民間の支援がはじめられるのか?
→さくらインターネットの場合、元々石狩市とのつながりがあったことが先に進むきっかけになりました。ただこういった接点を持つのは難しいと思います。今は北海道の地域の学校単位で「助けて」という声を上げれば応える受け皿作りをはじめています。(朝倉)
幼稚園から相談を受けたが、幼稚園からプログラミング教育をはじめることは可能なのか
→幼稚園は私立がほとんどで、各幼稚園で独自でやっているのだと思います。また私立ということもあって、入園してもらうための取り組みとしての効果もあると思います。小学校低学年向けのアンプラグドや、ビスケットといった教材は幼稚園の子供でもできると考えています。(朝倉)
プログラミング教育は効果があるのか?
→効果はあると考えています。コンピューターに興味を持ってもらうこと、学んだことと現実の橋渡しができるようにしていければと思っています。取り組んでみて効果を見ながらやり方も変えていければいいと考えています。(朝倉)
→これは「時代としてやっていかなければいけないこと」だと思っています。子供たちが興味を失わないようにすること、全体の雰囲気作りが大事です。(会場にいた高校の先生)
まとめ
最後に各登壇者からまとめの言葉がありましたが、その中から印象に残ったことをいくつかピックアップしますと、大畠先生から「来年度から開始するということで、子供たちが『学校でこんなことをやった』と話をすると思いますが、あたたかく見守ってあげてほしい」「スタートすると学校の先生方もわちゃわちゃすると思います。外国語も定着するのに5年くらいはかかりましたし、ぜひあたたかい目で見守ってほしいです」というコメントがあり、まさにこれからはじまるプログラミング教育という新しい取り組みに対して前向きな理解を向けることが、「道民にできること」なのではないかと思いました。
取材・執筆 さくらインターネット株式会社 さくらの学校支援プロジェクト広報担当 大喜多 利哉
参考情報
・さくらのプログラミング教育ポータル https://prog-edu.sakura.ad.jp/
・さくらの学校支援プロジェクトTwitter https://twitter.com/sakuraprogedu
・CSR活動「次世代育成支援」 https://www.sakura.ad.jp/csr/next-generation/